風に吹かれて 2023

五感 ー 視覚、嗅覚、触覚、聴覚、味覚。三週間ほど前、そよ風がさらっと私の顔や腕に触れたとき、懐かしさとともに秋の訪れを認知した。そして思った。「この感覚はどこからくるのだろう?五つの感覚のうちのどれから?」 


冷静になれば、それは肌で感じたから「触覚」だと思えるのだが、実はそれを思いつくまでしばらくかかった。 

なぜなら「冷たい」とか「秋特有の匂い」などという反射的、本能的な認識より先に、「懐かしい!」「あれ、これ知ってる。なんだっけ?」と、昔の記憶を辿るような脳の動きを先に感じたから。


音楽や匂いが記憶と結びついているのは、体験的に知っている。今回は肌で感じた風が記憶を探りにいったのだろうが、他の四つの感覚からの認識とちょっと違っていて一瞬混乱した。 

結局、具体的な記憶にたどり着いたわけでもない。一年ぶりの秋の空気を懐かしいと思っただけなのかもしれない。



風による記憶 ー 私には印象的な風による記憶がひとつある。以前ブログで書いたような気がするが、それはニューヨークの五月の風。 


私はセントラルパークで寝転んで英語クラスの宿題をやっていた。その合間に、その日の午前中のクラスでのちょっとした出来事を思い出していた。

出来事という程でもない他愛のない事なのだが、隣にいたメキシカンのクラスメイトが、なんの脈絡もなくふと私の髪を触ったのだ。肩の上の髪をそっと一瞬。 

セクシュアルな意図は全くなく、ふざけていたわけでもなく、彼自身も意図してないことが起こったような感じで、一瞬髪に触れて、我にかえって(?)ニコッと笑って勉強に戻った。

言っておくが15歳くらい年下の、私からみたらまだ子どものような、陽気ですごく性格のいいクラスメイトだ。

「あれはなんだったんだろう?」 

 午後、芝生に寝転がりながら謎を解くように思い出していた。

そのとき五月の爽やかな風が吹いていた。そしてその風は、新しく生えそろった芝生とまぶしい青空とそのクラスメイトの記憶に結びついている。 


彼、今頃どこで何しているかな。まさかあの一瞬の出来事が、風とともに記憶されたなんて、知る由もないだろう。

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